第9章 (1)
「門長、内部告発者からの入電です」
「明大、画面を切り替えてくれ」
「了解しました」
その日、ファイナルゲートのメンバーは新たな内部告発者からの連絡を受けるため歌舞伎町のプールバーの地下にあるファイナルゲート本部に集まっていた。
「ファイナルゲートですか?」
「はい、こちらファイナルゲートです。私は清野聖華、ご安心を」
「私は陽関製薬の小川と申します。実は私の上司の中村主任研究員が2ケ月ほど前から行方不明で、会社もその件に関しては捜索しているみたいですが、いっこうに何も手がかりがなく」
「警察に連絡は?」
「いえ、それが何故か警察には会社は捜索願を出していないのです」
「陽関製薬の中村主任研究員は栄養剤研究の第一人者ですね」
龍志は中村主任研究員のことを知っていた。
「はい、西洋薬品の野呂主任研究員と並んで日本の誇れる研究者の一人です」
「野呂主任研究員。あのインフルエンザの即効薬を開発した」
「そうです」
ジャガーたちは数ヶ月前の中山競馬場でのブラックスネークとの戦いを思い出していた。
「これは極秘事項ですが、中村主任研究員はドーピングに引っかからない最強の筋肉増強剤を開発したのです」
「増強剤?」
「そうです。人の運動能力を1.2倍まで高めることのできる増強剤です」
「ちょっと待ってください。最近のスポーツの記録を見ると、100m走や砲丸投げにマラソンの世界記録の更新、世界最速球のメジャー投手、年間ホームラン記録更新などなどさまざまな記録と怪物選手が突然現れているが、もしかしてその薬が関係しているのでは?」
明大が質問した。
「その可能性は高いと思います。しかし、この増強剤はまだ未完成で、肝臓での有毒物質の分解、解毒が上手くいかない場合は死に足ります」
「待てよ。あの中山競馬場での有馬記念の優勝馬、大穴の『セイショウオウ』が突然倒れたのもその増強剤のせいか?」
ジャガーは呟いた。
「おそらく、『セイショウオウ』は実験に使われたのでしょう。ちょうど、有馬記念の2週間前に中村主任研究員の行方が分からなくなっています」
「ということは、今回の件はブラックスネークが黒幕」
ファイナルゲートのメンバーは、ブラックスネークとの決着が迫っていることを全員感じとっていた。
「実は、その行方不明の中村主任研究員から昨日、メールが届いたのです。
私は無事だ。しかしある組織に増強剤『ゴット・パワー』』を造らされている。
今、利根川の上流にある研究所にいると。ファイナルゲートのみなさん、どうか中村主任研究員を助けだしてください。増強剤は未完成です。これ以上使用すれば多くのアスリートたちが命を落とすことになります。一刻も早く阻止してください」
「小川さん、あなたの勇気に感謝します」
聖華が小川に一礼した。そして、小川はファイナルゲートとの通信を切ったのであった。「明大、どうだ」
龍志が質問した。
「はい、実は微かに嘘発見機の反応があったのですが問題ないと思います。私は問題ないと、彼の証言は正しいと判断します」
「いや、明大さん、あんたの判断は誤っている。あの小川という男、殺気を感じた。俺のこの額の傷がうずいた」
ジャガーが明大の意見に反論した。
「何だと。欧州のスナイパーの変装を見破れなかったお前の殺気の勘とやらは当てになるのか?」
「明大さんの嘘発見機も、他国の女スパイの罠を見破ることが出来なかったじゃないですか」
「まあまあ、ご両人」
式三が二人に割って入った。
「しかし、中村主任研究員が行方不明であるのが事実なら、我々としては救出に向かわなければならない。式さん、中村主任の家族を中心に事実確認を至急頼む」
式三は龍志の言葉が終わらないうちにファイナルゲート本部を出て行った。
「聖華とジャガーは利根川の上流の研究所に向かってくれ。場所は本部との情報交換で確定しよう」
「了解した」
ジャガーと聖華は急いでファイナルゲートを出ようとした。
「ジャガー、これを持って行け」
明大がジャガーに腕時計を渡した。
「明大さん、あんたの趣味の悪い仕掛けは当てにはしない」
「勝手にしろ」
ジャガーと明大は目を合わせることはなかった。そして、ジャガーは聖華とともに愛車の紺色のジャガーで利根川の上流の研究所を目指すのであった。
「ファイナルゲートゲートフォールディング」
龍志は高らかに今回のミッションを宣言した。
明大はその言葉と同時に、利根川上流付近を衛星カメラで探索するのであった。
ジャガーたちは陽関製薬の小川が言っていた、中村主任研究員が拘束されている利根川上流にある研究所に到着した。
「お嬢さん、今回の敵はブラックスネークです。私が一人で探索します。ここで待っていてください」
「何を言っているんですか。探索は私の仕事です。ジャガーは中村主任研究員を救出することだけを考えていなさい」
聖華は相変わらず強気だった。ジャガーはそうした聖華の一面が好きであった。しかし、同時に聖華を愛し始めていることを、恋愛をしたことのないジャガーは気づいていなかった。
今は聖華を守ることが生きている証であり、最大の目的であった。そのことはジャガーの胸に深く強く刻まれていることは言うまでもなかった。
「お嬢さん、周りを探索しましょう」
「何を言っているの、正面から行きましょう」
聖華はそう言うと研究所の正面玄関の扉を開け、研究所の中に入って行った。
研究所のロビーには誰もいなかった。呼び鈴だけが寂しく置いてあるだけであった。
聖華が呼び鈴を鳴らすと中から一人の白衣を着た男が出てきた。
「はい。何か御用ですか?」
「実は、私たちは人を探しておりまして」
「そうですか。では、奥の部屋へどうぞ」
ジャガーと聖華は研究所の1階の奥にある応接室に通されたのであった。
その時、聖華の携帯電話がなった。
「はい、聖華。そうですか、分かりました」
応接室のソファーに腰をおろしたジャガーに聖華は報告した。
「ジャガー、式さんからよ。やはり中村主任研究員はここ数ケ月家に戻っていないわ」
「そうですか」
その時ジャガーは額を抑えた。殺気を感じたのだ。
「お嬢さん、警戒してください」
しかし、その言葉はすでに遅かったのであった。
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